2014年7月16日水曜日

ONEOHTRIX POINT NEVER 「Replica」


Warp移籍に乗じて一気に知名度を上げた、ブルックリン出身:ダニエル・ロパーティンの2011年作、五枚目。Mexican Summer傘下で自ら興したSoftware Recordsより。
気になるこの不気味なアートワークは、パルプフィクションなんぞの挿絵で糊口を凌いでいた不遇の絵師:ヴァージル・フィンレイ。

〝ヴェイパーウェイヴ〟なる音楽をご存知だろうか? 日常で流れている当たり障りのないフレーズを(アイロニー含みで)コラージュしてトラックを組み立てる、何とも露悪的な代物をこう呼ぶ。生活音や自然音を録り込んで利用する〝ムジークコンクレート〟とは似て非なるモノだ。
さて本作はロパーティンが100ドルで、昔のCMがふんだんに詰め込まれたDVDを買ったところから端を発している。言うまでもなく、コレを素材にアルバム一枚ヴェイパーウェイヴってみよう! となる訳だ。その発想が理解に苦しむ。
もちろんこのDVDから盗んだ拾った数あるパーツのみで構成した訳ではない。そこへ、ロパーティンがシンセ音色を当てはめて融合する形を取っている。彼はこれまた数あるシンセ音色の中でもクワイヤ(模擬コーラス音色。荘厳な雰囲気が出る)を好みがちなので、何となくどれか分かるだろう。

ただ、分かるからと言って、どこまでが件のDVDをサンプリングした音色で、どこからが彼がシンセで生成した音色か? と問われたらどう答えるべきなのだろう。
『ンなコトどーでも良いよー』と思考停止するのも快楽主義的に悪くない。『いや、これは分析する価値ありますぞ!』なんてメガネクィッとするのもスノッブで俗っぽくて悪くない。
このアルバムのキモは現実(ロパーティンのシンセ音色)と虚構(DVDからのサンプリング)の境界線が曖昧になっているところにある。
アルバム一音色が注ぎ込まれたM-03のDVD音色含有率は如何に、とか。〝Up!〟と無機質にループさせた声ネタの底で、彼の作品としては珍しく用いられているパーカッシヴなビートはもしやサンプリングなのでは? とか。M-09に浴びせられたヘンテコなループ群はもしやヴィデオゲームから持ってきた(ちなみに彼はヌルゲーマー)のかという以前にトラック半ばで入る血の通いが薄い少年少女合唱音色は本物なのかクワイヤなのか? とか。
こうして疑念が生じてくると、M-05の主音であるピアノすら、どこの馬の骨の音色かも分からなくなってくる。
いや、そもそもロパーティンの浮遊感漂うシンセ音は現実を意味しているのか? むしろかつてTV番組の合間で確実に存在していたDVDの方が現実感あるぞ、とか。

このような現実と虚構の狭間で揺れ動く感覚、堪らんね。
ロパーティンはアンビエントちっくな長音を能くするので、意識を集中させると相乗効果でお手軽なトリップ感覚が得られる俗っぽいアルバム。
おやおや、やっぱりこの人の本質って露悪主義だわ。

M-01 Andro
M-02 Power Of Persuasion
M-03 Sleep Dealer
M-04 Remember
M-05 Replica
M-06 Nassau
M-07 Submersible
M-08 Up
M-09 Child Soldier
M-10 Explain


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