2014年5月16日金曜日

KTL 「IV」


シアトルの漆黒斧使い:オマやんSOMAことステファン・オマリーと、Editions Megoを主宰するPITAことピーター・レーバーグの異色デュオ、2008年作(こんなタイトルだが)三枚目。
レーベルは無論、Editions Mego。デザインは、オマリー。

まずは資料的なことから。
ユニット名は〝Kindertotenlieder〟の略。演出家のジゼル・ヴィエンヌとアウトサイダー作家のデニス・クーパーによる同名の舞台の劇伴を創るにあたって、依頼を受けたレーバーグがオマリーを誘うところからこのプロジェクトが始まっている。
やがてLP二枚、EP一枚でその活動が一段落するも、解散せず独自のユニットに発展。あのジム・オルークをプロデューサーに迎え、何と日本の吉祥寺でレコーディングを敢行。ドイツのケルンでミックスを施し、出来たモノがコレ。
なお、BORISの敦夫がドラムで参加している。

さて内容だが、オマリーのギターを軸にレーバーグがノイズ/電子音を散らす、掛け声一つ入らぬ純然たるインスト。ドラムは居るが拍は欲さぬ、衆目の予想通りな音世界だ。
ただ、そこで『ですよねー』と知ったふりして深く攫うのを止めては、このアルバムの持つ〝業〟が浮かび上がってこない。
そこに、彼らの求める罪深い音世界があるのだから。

まずレーバーグの捻り出す各種音色が非常に多彩であること。
オーソドックスにインダストリアルちっくな軋む音から、バネが無軌道に跳ね回るような音。垂れ込める幽々しき背景音。電子ホタルが火を灯すようなワンショット。目覚まし時計から生成したようなけたたましい連続音。水晶製の縦柵を棒で左から右へ辿ったような音。電子部品がスパークするような音。鼓膜を棒の先であちこち弾く音――
ある意味大ネタ使いであるムジークコンクレートとは一線を画した、我々素人の耳には『これどうやって作ってんだ?』としか思えないさまざまな雑音が、オマリーのギターへこっそり茶々を入れつつ、さり気なく幅を利かせている。
それを更に深化させたのが、オルークの推進する〝偶発的な音〟の有効活用である。
つまりグリッチ――録音の際に発生した予期せぬ音だ。
オマリーのアンプから絞り出たフィードバックやプラグをガリる音、レーバーグの機材から漏れた通常ならカットすべき雑音はもちろん、敦夫のドラムをわざと低周波数で録り、その際に生まれた正しく再現出来ていない音もろともトラックに組み込むような大胆な発想も彼ならでは。
上記の要素が全て詰まった、21分にも亘るM-02がこのアルバムのハイライト。力技のギターとドラムが、手練手管のノイズを相手取って獅子奮迅する。

偶発的な+αを欲している割には、全てが計算ずく。一見、オマリーがレーバーグとオルークの掌で踊っているかのように映る。
だがオマリーは、彼の弾くギターは、操り人形に非ず。SUNN O)))で培った、これまた多角的なギターの鳴らし方で勇ましく対抗する。
音像はドローン系なのでさしづめ、静かなる水面下での諍いか。もちろんお互いの才にリスペクトを払った、美しい闘いであることは論を俟たない。

音の気持ち良さだけでなく、音の凄さの一端を垣間見られる一枚。
聴けば聴くほどその真価が牙を剥く。

Disc-1 「IV」
M-01 Paraug
M-02 Paratrooper
M-03 Wicked Way
M-04 Benbbet
M-05 Eternal Winter
M-06 Natural Trouble
Disc-2 「KTL IV Paris Demos」
M-01 Paraug 1 Part 2
M-02 Paraug 1 Part 3
M-03 Benbbet
M-04 Parathird

毎度毎度のDaymare Recordingsによる日本盤だが、ゲートフォールド紙ジャケ仕様はもちろん、ボーナスディスクに2008年八月八日にパリで録った限定150枚のデモ音源(本作のプリプロダクション!?)が付いてくる。そのランタイムは47分くらい。
高いけどとてもお得。


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