2011年10月8日土曜日

DJ KRUSH 「覚醒」


日本のヒップホップ黎明期から活動を続け、今や世界的なビート・マエストロ――そんな凄い方の五枚目。1998年作。
〝トリップホップDJ四天王〟なんてくだらない括りも、今だから嘲笑える呼称だ。

過去作はところどころ(有名・無名に関わらず)MCやシンガーの助力を仰いでいたが、本作は(日本盤レコードと海外盤のボートラであるM-17以外は)全てインスト。彼の並々ならぬ心意気が感じ取れるはずだ。
でもその〝心意気〟が、流して聴いた程度で伝わるとは思えない。
くごもったような音質から、ひっそりと添えられる上モノ。スカスカな全体像。何だかとても地味~~ィに聴こえるかも知れない。

よし、十回通して聴け! 横暴な! なら千回聴き込め! ノックかよ!
いやいや、そんなコトをせずとも一回だけ、各音を意識して静かな場所で聴きさえすれば、本作がどんなに凄いアルバムか理解出来るはず。
ヘッドフォンをご用意を。

まず音がスカスカだからさぞかし音数を切り詰めているかと思いきや! 思ったより音色を費やしていることに気付かされることだろう。
主音とビートはいいとして、あまりに奥ーゥの方で鳴ってるものだからグリッチと勘違いしそうな音色もあれば、どうやら本当にグリッチらしい音もある。それらをひとつひとつ数に入れると、驚くほど音が蠢いている。
それらを全て掌(たなごころ)に転がして、彼はトラックを構成する。
いちいちその副音を追っているだけでも楽しい。副音が主音たちに飲み込まれていくような心地も覚える。
更に聴く度に「あ、こんな音鳴ってたんだ」という発見も齎してくれる。
そんな風にリラックスして聴けるのも、ごちゃごちゃと音色を配置せず、すっきりと構成されているから。〝スカスカ〟なのではない、きちんと整頓されているのだ。

もし本作にラッパーやシンガーが居たならば、そちらに耳を奪われて、おそらく気付かなかったことかも知れない。
居たら居たで構わないのは、M-14の歌付きであるM-17が証明している。
だが、本来ある必要のないモノを全編、無理矢理組み込むことほど無粋なモノはない。

彼はおそらく、インストアルバムを創るつもりで本作に取り組んだ訳ではないと思う。
創り進めていくうちに「今回、声はネタ以外に要らねーかも」と察したのかも知れない。M-17はその名残かも知れない。
だとすれば、その素晴らしい慧眼と英断に感服。

M-01 Intro
M-02 Escapee
M-03 Parallel Distortion
M-04 Inorganizm
M-05 Deltaforest
M-06 Crimson
M-07 The Dawn
M-08 Interlude
M-09 85 Loop
M-10 Rust
M-11 1200
M-12 Krushed Wall
M-13 The Kinetics
M-14 Final Home
M-15 No More
M-16 Outro
M-17 Final Home (Vocal Version)


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